第6回TSUKUBA憲法レクチャー「A Journalists Perspective to Okinawa and the Japanese Constitution(ジャーナリストが視る沖縄と日本国憲法」を実施

2023年7月24日

2023年2月14日(木)、第6回TSUKUBA憲法レクチャー(主催:社会・国際学群、後援:学群共通科目部会)にて、「A Journalists Perspective to Okinawa and the Japanese Constitution(ジャーナリストが視る沖縄と日本国憲法)」と題して、シラキュース大学(米国)助教で、ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督、プロデューサーなどとしても活躍されている大矢英代先生に英語でご講演いただきました。司会は、秋山肇助教(人文社会系)が務めました。

ご講演は、「なぜジャーナリズムが重要であるのか」、「第二次世界大戦と沖縄」、「米軍基地と日米地位協定」の3つのパートで構成されていました。1つ目のパートでは、ジャーナリストの役割についてのお話があり、ジャーナリストの役割とは、単純に何が起こったかを報告することではなく、権力の監視、警鐘を鳴らすこと、不正義の告発であるということでした。そして、ジャーナリストの言論は日本国憲法21条によって保障されており、これらに照らすと、ジャーナリズムが正しく機能していることが民主主義の根幹であるというお話がありました。そして、彼女自身は、特に、弱者とされている人々の声を届けることを重要な使命としており、現在までに、カンボジアのジェノサイドやアフガン侵攻の生存者、「ブラック・ライブズ・マター」運動におけるアフリカ系米国人、米国大統領選挙において投票権を持たないプエルトリコの人々などへのレポートを行っていると紹介されました。

ジャーナリズムに期待される機能のお話から、ご講演は彼女が特に注力されている「第二次世界大戦と沖縄」のお話に移っていきました。戦時中、ジャーナリズムは、本来の機能を見失い、国民の戦意をあおり、戦争に駆り立てるための道具になってしまったことに言及され、那覇市若狭旭が丘にある「戦没新聞人の碑」を紹介されました。沖縄戦の際に命を落とした新聞記者を弔うこの碑は、単に戦争によって命を落とした新聞記者を弔うためのものではなく、ジャーナリズムの本来の役割、つまり、報道によって人々を犠牲にするのではなく、助けるということを思い出させるためのものでもあると話されました。

沖縄をテーマにした彼女の大きな業績として、戦時中から戦後にかけて住民を苦しめたいわゆる戦争マラリアについてのドキュメンタリー映画製作、著書の執筆があります。戦時中、八重山諸島の風土病だったマラリアは八重山島民の多くの命を奪いました。しかし「戦争マラリア」は単なる戦時中の病死ではありません。それは、日本軍が自分たちの食料確保や住民が米軍の捕虜になった際の情報漏洩の防止(「スパイ活動」の防止)などを目的として住民をマラリア有病地域に強制移住させたことが主な原因でした。死者は3600人余にのぼりました。彼女は、40人を超える生存者にインタビューを行い、そのような事実を白日の下にさらしました。このドキュメンタリー映画製作のためのインタビューで、彼女は多くの住民からインタビューを受けることに難色を示されたといいます。住民から話を聞くため、彼女は、八重山語の習得、八重山で行われている行事への参加、畑仕事などを通して島民と信頼関係を構築し、インタビューに成功したそうです。

3つ目の、「米軍基地と日米地位協定」のパートでは、まず、日本国憲法98条における日本国憲法の最高法規性にもかかわらず、日米地位協定は駐留するアメリカ軍人の事件事故時に日本側の捜査・裁判権を制限したり米軍基地の米軍人に対する裁判権の放棄密約など治外法権的な特権を認め、また、多くの沖縄県民の権利を脅かしていることが紹介されました。例えば、2008年から2019年の間にアメリカ軍関係者によってされた犯罪は5177件であるが、およそ80%である4107件は起訴されていません。これには、日米地位協定下の日本の、米軍基地への調査権利の欠如、事故調査権の欠如をはじめ、1950年代に日米両政府が秘密裏に結んだ裁判権放棄密約の影響などの理由が挙げられるそうです。このような様々な不正義に対して告発を続け、警鐘を鳴らし続けてきたジャーナリストが今日置かれている立場は決して明るいものとは言えないとのことでした。2013年に施行された特定秘密保護法により、ジャーナリストはこの法律に違反しているとされれば、10年以下の懲役に処されることもあると紹介されました。

ご講演後には、質疑応答の時間も設けられました。なぜ、沖縄をテーマにした研究をしているのにアメリカに拠点を置いているのかという質問について、アメリカの若い世代の人々に、アメリカ軍や政府によって沖縄で何が起こっているかを伝える教育者になりたいというお言葉がありました。

彼女は、ご講演の中で、アメリカの人々が、沖縄を抑圧し続けるような米軍やアメリカ政府を支持し続ける理由について、アメリカは自国の中でも様々な問題を抱え、沖縄で起こっている問題について考える余裕がないからと人々が言っているとお話しされていました。しかし、私たちもそうではないでしょうか。我々も日常的な忙しさに託け、「弱者」とされる人々のことを日常的に考えることは少なくなっています。しかし、沖縄では、日常的に権利が侵害され、また、権利が脅かされています。憲法の下に皆平等であるにもかかわらず、不当に抑圧されている人々がいます。そのようなことに対して日々警鐘を鳴らし続けているジャーナリストを通した彼らの声に耳を傾け、置かれている立場を知り、黙することで抑圧に加担するのではなく、声を上げることで彼らに寄り添うことが、私たちができる民主主義を守り、憲法を守る術なのではないかと感じました。

文責:社会学類4年 能地康太

* TSUKUBA憲法レクチャーとは

専門の異なる様々な学生が集まる筑波大学で、多様な視点から憲法に関心を持っていただき、「TSUKUBA」ならでは憲法の学びの機会を提供するレクチャーシリーズです。SDGsにも関連した題材を扱っています。第6回は、目標16「平和と公正をすべての人に」に関連するレクチャーとなりました。